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はてなダイアリーで書き殴っていた自動車に関する放言記事を1つのブログにまとめました。

小型車の理想型 アウディA3セダン と ホンダグレイス

  ちょっと前までオッサンライターが雑誌の巻末にあるようなミニコーナーで、挨拶代わりくらいに「5ナンバーセダンを作れ!」みたいな声を挙げていました。自動車ライターの本能として、日本のクルマを愛するユーザーの多くにこの言葉が広く響くことを知っているゆえのセールスフレーズ?という気もするのですが、ニューモデルマガジンで覆面せずにその愛嬌ある素顔を晒している松下宏さんなどは、本心からそう言っているのが伝わってきます。小型がいい!と口癖のように言っているライターは普段からドライブを楽しんでいらっしゃる様子が感じられてそれなりに好感がもてますが、その反面「デカいからダメで、小さいから素晴らしい」という基準を全てのクルマに押し付けるのはいかがなものか? BMWアクティブツアラーは小さいからOKで、トヨタアルファードはデカいからNGって・・・。

  さて松下氏の評価なんて今回はどうでもいいことで、次第に声がきかれなくなってきた「5ナンバーセダン」待望論ですが、実際に小型セダンが発売されたら本当にメーカーもユーザーもハッピーになれるのか?ということを検証したいと思います。今さらですが、現在では5ナンバー枠などは自動車税制上なんら優遇などはありません。それでも日本で5ナンバーセダンが既存のラインナップを上回る絶賛が得られるとは考えにくい気もします。とりあえず私の実家のようなクランクのあるトリッキーな車庫を持つ住宅では5ナンバーサイズであることは重要かもしれないですが、それでも私の4735mm × 1795mmのセダンを入れることはできますし、お隣さんはF10系5シリーズを入れています(FRは小回り有利だけど)。よっぽどの環境ならば無理せずに軽にするべきかと・・・選択肢を増やしたい?なるほど。

  実際のところ5ナンバーの日本車はいまも継続して作られていて、日本よりもインフラが酷いであろう東南アジアを始めとした新興国で大人気です。もし本当に日本でこれらに大きな需要があるならば、現地で人気のあるセダンタイプの小型車を逆輸入させることも可能です。日産や三菱が一部行っている海外組み立てモデルの逆輸入はやはりというは製造国を気にする人々に受け入れられずに不人気に陥っています(南アフリカ製のドイツ車はよく売れてますが・笑)。それでも近年は新興国でも高品質な小型車に人気が出てきたようで、日本を走るフィットやデミオに品質で負けないレベルの内装を備えた海外向けモデルがそのまま日本へ大挙して上陸する時も近い気がします。その予行というべきクルマがホンダのジェイドで、ベース車はアジアで売るフィットのセダン版「シティ」を使っていて、日本に合った内装・乗り心地と走行性能(燃費性能)、さらにデザインの改良を施して登場しました。

  発売当初からHVのみの設定が続いていましたが、月に4000台を軽くクリアするなど、松下さんが猛プッシュしていた5ナンバーセダンは売れる説が証明されました。フィットHVとアクアの値引き合戦があって本体価格が150万円台の攻防になっている1.5LのHV車の枠組みで195万円と高めの設定でこの台数ですから、ホンダの細部に渡る戦略はかなりいい線を突いていたようです。日産ノートが高級感あるコンパクトを売りに、やや高めの価格設定ながら販売を伸ばしましたが、それを横目にみながら、いや主力のフィットの市場を荒らされた報復とばかりにグレイスの日本販売計画が練られたかのようです。ノート、デミオ、グレイス、さらにジューク、CX3、ヴェゼルといった価格よりも中身で勝負するコンパクトカーが増えているのが、まさに現在の日本市場のトレンドです。その中でもセダンボディで勝負したグレイスの今後の売れ行き次第では、日産のサニー(ラティオ)やマツダデミオセダンが日本向け高級仕様になって登場するかもしれません。ベース車は日本で生産してないですけど・・・。

  もちろん日本市場にはコンパクトの絶対王者アクアとフィットが熾烈な争いをしていて、1.2Lエンジンを作らせたら世界最良といわれるスズキの名車スイフトもいます。いくら自動車ライターがVWポロやプジョー208といった海外モデルを絶賛しようとも、試乗すればどれだけ日本勢が洗練されていて使いやすいか評価を上げる「噛ませ犬」(のくせに200万円か?)でしかないです。日本に入ってくる欧州コンパクトのほとんどが中国で売るために開発された東アジア仕様の設計であり、日本の工場で作る水準のクルマとは残念ながら精度にかなりの差が出てきます。カーナビも満足に付かないとか、シフトがギクシャク過ぎて使えないなどといった論外な事例はかなり減ってきたようですが、そもそも利幅も薄くメーカーもユーザーもあまり嬉しくない関係になりがちな価格なので、日本に持ってくる必要すらあまり感じません。まあBセグ車に「HV」だの「ディーゼル」だの「スーパーチャージャー」だの付けてくる日本市場が完全に狂っている!という意見もあるでしょうが・・・(そんなもんは欧州では高級車で使うパーツだ!)。

  欧州ブランドがそれなりに目の肥えた日本のユーザーを満足させる水準のクルマとして、高い水準の販売につなげているモデルはゴルフや1シリーズなどのCセグから上のクラスです。日本市場でC、D、Eセグメントの販売は低調で、日本メーカーがSUVやミニバン、コンパクトや軽自動車などに開発資源を多く使っているために、相対的に手薄であって輸入車ブランドが付け入りやすいし、利益率の高いクルマを売りやすいということが輸入車ブランドの存在感を大きくしています。Bセグでは日本車に全く歯が立たないけど、CセグならばVWゴルフやボルボV40など、ブランドの実力を越えて指名買いが入るようなヒット車が目立ちます。300万円くらいで走りに定評がある輸入車に乗れる!しかも内装もBセグとは段違いに素晴らしい!静音性も衝突安全性も(輸入車の)Bセグよりずば抜けて優れている!などなどCセグ車を買いたくなる理由はいくらでもあります。プジョーも価格なんて気にせずに、さっさと308をフルラインナップして勝負すべきだと思うのですが・・・。

  さてCセグメントというと、BMW118iとメルセデスA180が揃って298万円という釣り価格をぶら下げています。対抗するレクサスCTが366万円で、さらに日本勢の中核を担うCセグの最先端といえるトレンドマシンは「アクセラスポーツXD」(307万円)と、「インプレッサスポーツHV・L・アイサイト」(286万円)の2台ですから、輸入車勢の「ゴルフコンフォートライン」(288万円)、「ボルボV40D4」(349万円)、「プジョー308アリュール」(310万円)とプレミアムブランドも一般ブランドもゴチャゴチャに入り乱れてのバトルロワイヤル状態です。さらに日産に代わって親会社のルノーが「メガーヌ・ゼン」(249万円)を送りこんで価格面で揺さぶりをかけてきました。デザインのブラッシュアップが冴えるルノーですから大ブレイクの予感もあります。

  しかし、自動車メーカーが想像力を欠如させ横並びで作った、似たり寄ったりのクルマに、政治的に価格設定が行われているこれらのCセグ車には、やはりそれほど興味が湧きません。日本勢のパワーユニットの足し算作戦も悪くはないですけど、いまいちインパクトに乏しいです(アクセラもインプも自然吸気2Lで思いっきり走らせるのが楽しいのでは?)。そんなCセグの王道から50~100万円ほど上の価格帯には、日本市場の心理を上手く突いた、新世代Cセグ車が着実に販売を伸ばしています。メルセデスの「CLAシリーズ」、スバルの「WRX S4」「レヴォーグ」、BMWの「2シリーズクーペ(特にM235i)」、アウディA3セダン、そしてホンダの「ジェイド」です。スバルやBMWパワーユニットの存在感に依存するところもありますが、いずれもCセグに収まりきらないような、魅力のボディとデザインが好調な販売に貢献しています。どうも安物感が出てしまうCセグハッチバックと比べて、いずれも車格を高く見せるような工夫が見られます。獰猛さを兼ね備えたフロントデザインと、クルマの能力を高く見せる優雅なサイドライン、そしてハッチバックでは一番安っぽく見えてしまう弱点とされるリアデザインには、優美なトランクに小粋なスポイラーを配したり、ワゴンボディのリアゲートを大胆に寝かせたりなど、Cセグの水準を大きく越えたアイディア合戦が繰り広げられています。

  冒頭に紹介したホンダ・グレイスは今Cセグで起こっていることをホンダがいち早く察知して、Bセグで展開して見事に成功したクルマです。Cセグを代表するVW・ゴルフシリーズとBセグを代表するホンダ・フィットシリーズは、VWとホンダがそれぞれグローバルでの勝ち組であることを示す金字塔ですが、日本を含む幾つかの市場で、ホンダはフィットでゴルフに挑む!というキャスティングボードを提示しています。もちろんホンダにはCセグのシビックシリーズがあるわけですが、シビックは世界最大の北米市場でも有数の売上を誇るクルマで、カテゴリーとしては「アメリカン・スモール(Cセグ)」の王道を突き進むクルマです。ゴルフも北米で販売されていますが、シビックの足元にも及ばないほどに低調です(シビックより安いのに!)。よってセグメントは同じでもシビックとゴルフでは追い求める市場も違います。ホンダとしてはゴルフを世界各地で狙い撃ちできる戦略車としてフィットを成長させていて、シビックはどうやらアキュラブランドの戦略モデルとしてBMWメルセデスといったやや重厚なブランドへぶつけていく狙いがありそうです。

  そこでホンダvsVW、フィットvsゴルフというホンダが描く対立軸で、それぞれのシリーズから派生した、特別仕様の小型セダン同士が日本市場でぶつかった結果、「グレイスvsアウディA3セダン」という結構ガチな選択が起こっている!みたいな話をチラホラ耳にするようになりました。最初は「グレイスHVかアウディA3セダンか悩む」と聞いたときには、そんなバカな!!!と思いましたが、どちらも実車を見に行ったところ結構いい勝負だと感じました。もちろん価格差(およそ150万円!)が雄弁に語るだけアウディA3セダンにも魅力がありますし、まさかのA3セダンと同じ土俵に立つくらいにグレイスHVも全面的に気が利いています。アクセラセダンのように2Lモデルが無かったり、ハイブリッドがトヨタ式の緩い電気式CVTだったりといった「却下!」な隙は、デザインの好みくらいなもので、VWと互角の変速速度を誇るDCTはヴェゼルHVのヒットからも伺えますし、車重ゆえに唸ってしまうケースが多いヴェゼルのユニットもグレイスに載るとじつにバランスが良いです。

  ゴルフGTI級のユニットを積んだA3セダンの上級グレードならば走りの刺激が倍増されるので、グレイスとの比較はナンセンスとなりますが、価格差も250万円まで広がりますので、それならば(アウディ専用設計の)A4にしておこう!という話です。1.4LのA3セダンなんて興味ありません!という人はきっとグレイスにも興味もないでしょうが、両車が目指した「高級感溢れる小型セダン」というコンセプトの実現度は、現在のところ販売好調で話題の中心にいるメルセデスマツダをも越えるくらいに力強いです。グレイスに与えられたプレミアムブランドっぽいシフトレバー(ヴェゼルと同じ?)は、マツダアウディの古めかしいMT調デザインのレバーよりも洗練された印象ですし、メルセデスコラムシフトよりもずっとカッコいいと思います。最上級のグレイスHV・EX(247万円)を選べば、パドルシフトが付いてきますし、自動ブレーキ、前席シートヒーターとリアエアコン&リア用電源プラグまで標準で付いてきまし、本革シートもオプション選択できます。「Bセグでもレザーシート」という欧州メーカーが理解不能な概念が、ノートやデミオですでに広がっています。

  グレイスHVとアウディA3の2台は、今後も日本市場で活躍できる素晴らしい作り込みがされてますが、まだイマイチ一般には浸透していないようですので、ぜひぜひ松下宏さんに比べてもらって、満面の笑顔で甲乙つけてもらいたいなと思います。

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