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はてなダイアリーで書き殴っていた自動車に関する放言記事を1つのブログにまとめました。

プロトエンジニアリング

  トヨタ86が登場した2012年頃からでしょうか? これまでのクルマの価値感がガタガタと崩れて、「憧れのクルマは!?」と訊かれて、「GT-R」とか答えるのがなんだかちょっと小っ恥ずかしくなった気がします。クルマへの願望がリアルからエアになった!?とか言われますけども、20年前の比べて若者の経済力が無くなったわけでもなく、売れなくなった主な理由は、20~30代にかけて仕事が忙しくて海外転勤だって多いですから、クルマ趣味を育む環境も与えられない(けど経済的に恵まれている)若者は確かに増えたかもしれないです。そういう意味ではクルマを買わない(=エア)ままで憧れを語る人も多いかもしれません。

  実際には買わない!!となると「憧れ」そのものはどんどん肥大化していった結果、「アウディR8」や「アストンマーティンDB11」のような日本で1年に100台売れるかどうか!?くらいのクルマにばかり関心が移っていきました。それ以外のセダンとかSUVとか今ではあんまり興味なくなっていて、実際のところ「C-HR」とか「新型CX5」とかマジでどーでもいい感じです。それとは別に「R8」や「DB11」みたいに2000万円を越える価格を提示できるクルマは、それはそれでいろいろな意味を持っていて、まずはそれだけ「クルマ造りに自信がある」ということの証明になります。あの高級車ブランドの代名詞であるメルセデスですら、さすがに2000万円という価格設定には躊躇します。スペシャルなショーファーカー仕様のSクラス、あるいは「AMG」の最上級レベルのモデルでも無い限り、2000万円ではマーケット的に成立しないと思われます。

  メルセデスの長い歴史で高性能GTクーペとしてその名を刻んだ「300SL」の時代から早くも半世紀が経過しました。バブルの頃まではメルセデスの高いエンジニアリングが認知されていましたが、現在では1000万円で世界最速に限りなく近づけるGT-Rが広く知られるようになって、メルセデスAMGの存在意義はすっかり薄まりました。まだまだ最速の4ドアセダンという看板は維持していますが、ヤクザ以外にE63AMGを必要とする人はいるの!?メルセデスが2000万円を提示できない根本的な原因は、メルセデス車全般が200万円そこそこのトヨタ車にすら及ばない水準のエンジニアリングだということが完全にバレているからです。ここ数年でベンツの新型モデルを試して、インテリアのセンス以外の部分で感動した!!って人います!?

  300万円で買える「プリウス」「マークX」「ハリアー」に比べて、同じ300万円の「A180」ってあまりに落差があります。失礼ですが、日本車とインド車くらいハッキリと違う。エンジンの抑揚も、ミッションの品質も、アシ回りのフラット感も、車内の静粛性も・・・。これがCクラスになってもEクラスになっても同様の不満がいくらかマシになることはあっても無くなることはないです。まあそれでもユーザーがそこそこ増えているのは、メルセデスのステータスが都内で乗り回すのにほどほどに丁度いいことと、現在のメルセデストヨタと大きく価格差が付かないような絶妙な落とし所をつくるなど、目一杯に日本市場を研究して価格設定しているからだと思います。もっともGT-R、R8、DB11が普通のクルマとどこが違うか!?なんてこと全く解らない人にとっては、メルセデスの設計なんてどーでもいいことですけどね。

  どうやら最近のドイツブランド(特にメルセデスBMWVW)の基本戦略は「クルマそのものは弄らないで、ユーザーの気持ちを徹底的に弄る」といったものです。クルマの開発費はやたらとケチっていて、広告宣伝費にカネをかける。そして必要な技術を得るために業績が傾いている老舗メーカーを積極的に買いあさります。メルセデスクライスラーと三菱とスズキにちょっかいを出し、BMWはMINI、ランドローバーロールスロイスを買ったり捨てたり、VWシュコダ、ポルシェ、スズキなどなど。デザイナーや技術者も他のブランドから節操なく引き抜きます。・・・まあそんな環境からは「マトモ」かもしれないけど、無理して買いたい!!って思えるような傑作車は出てこないですよね〜・・・。日本メーカーがどっかの海外メーカーを買収した!!って話はまず聞かないですよね。自前での開発こそが大切だとわかっているメーカーにとっては、ドイツメーカーの行動はほぼほぼ意味不明です。

  R8やDB11への「憧れ」を隠さない「エア」な人々は、本能的に実用車において「空洞化」が激しく進行していることを察知しているんだと思います。「Aクラスとか1erとかたとえ乗り出し100万円でも要らないレベル」この言葉の真意がわからない人は、ある意味でとっても幸せな人です。そーいうクルマで満足できる人々は羨ましい。去年は日本車が不作だった!!とか言われてますが、確かに絶対数も少なかったし、200万円のトヨタ車や700万円のメルセデス車と互換性が高いだけの徹底した「実用車」しかなかった!!という意味では「不作」でした。インプレッサもスバルが出遅れていた次世代シャシーがやっと登場したもののそれ以上のインパクトは無かったです。旧型シャシーでは現行フォレスターのデビューモデルの乗り心地がヒドかったり、自信作であるはずのWRX・S4がスポーティでもラグジュアリーでもないビミョーだったり・・・と次々と期待を裏切るメーカーだったですけども、マツダトヨタとの差がちょっと埋まったかもしれません。

  R8やDB11への「憧れ」とは、裏を返せばある種のクルマの誕生を渇望する禁断症状とも言えます。「クルマへの情熱を失ったマーケット」や「チャレンジ精神の欠如したメーカー役員」や「サプライヤー主導の技術導入」といった数々のクルマをつまらなくするファクターを全部振り払って、歴史に名を残したい!!というメーカー開発者の「エゴ」が存分に発揮された意欲作を待っているんです。R8、DB11、NSXといった高額なモデルじゃなくても、そういうクルマは作れる!!例えば「ルノー・トゥインゴ」「ホンダS660」「マツダロードスター」そして「トヨタ86/スバルBRZ」・・・。なんでこれらのクルマ(スポーツカー)が良く売れるようになったのか?トヨタアルテッツァアルファロメオ156やマツダGGアテンザみたいな、開発者の「エゴ」が丸出しの4枚ドアのプライベートなGTセダンがことごとく消えてしまったからだと思っています。

  昔のトヨタ(2000年頃)はたった1つのカローラの設計に、あらゆるレベルの「エゴ」を放り込んでました。3BOXでサイドラインが美しい2ドアの「レビン」。全高低めの3ドア・ファストバッククーペの「セリカ」。欧州戦略用に作った5ドア・ハッチバックYAMAHAチューンの可変バルブタイミングの高回転エンジンを載せたホットハッチ版の「ランクスZエアロ」。挙げ句の果てにはランクス後継の「ブレイド」に3.5LのV6を搭載するトヨタ版・ゴルフR32みたいなモデルまで登場しました。150万円くらいで買えたカローラにこれくらいのバリエーションがあって、さらにアルテッツァスープラまであったわけですからね〜。その後は奥田碩会長・張富士夫社長というコンビの時代となり、語弊を恐れずに言うと(豊田章男社長の談話から推測するに)トヨタから「エゴ」が消えました。

  奥田・張時代に生み出されたトヨタの看板モデルといえば、ミニバンの概念を完全に変えた傑作ミニバンの「アルファード」です。そしてそのアンチテーゼとして作られたらしい「トヨタ86」は豊田章男時代の幕開けとなりました。とんでもなく大雑把に分けると、日本で発売されているクルマは「アルファード」路線か、「トヨタ86」路線のどちらかに色分けできます。家族で使うクルマなら「アルファード」が一番です。高齢な母親を乗せるにもとってもいい選択ですし。電動スライドドアなんてなんとも贅沢な設計です。メルセデスBMWも敢えて分類するなら現行モデルの全ては「アルファード」路線といっていいです。M2/M3/M4がアルファードだって!?ドライサンプでもない、トランスアクスルでもない、超軽量設計でもない、専用シャシーでもない・・・。ごくごく普通のタイヤが4つとナビが付いて、ミッションは200万円のルノー車でも使われているような、ゲトラグ製のありふれたDCT。そしてアルファードのような押し出し感を意識したフロントマスク。・・・これに「エゴ」を感じますか!?

  2012年の段階ではまだまだ不鮮明でしたけど、これからの新型車は「素性」で決定的に立ち位置が決まっていくんじゃないでしょうか。最初の設計段階(プロトエンジニアリング)で間違えたらもうダメ・・・。たとえばプジョー308やマツダ・アクセラのようにいくらハイテク要素を見せつけたからといっても、最初に「アルファード」的なスタンスを採ってしまったら、あとは徹底的にファミリーユーザーに媚びないと売れないと思います。メルセデスBMWも「We are ファミリーカー!!」と開き直ったモデルの販売が好調なようです。プジョーマツダもスバルも中身はファミリーカーなんですけども、ファミリーユーザーに媚びる姿勢は出して無いですね。だから日本では不調なんでしょう。・・・この3メーカーのイタいところは、「中身が無い」ことがすでにバレているのに、必死で「ある」フリをし続けているところです。もちろんロードスターBRZ以外の話ですけども。

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