CARDRIVEGOGO アーカイブ・ブログ

はてなダイアリーで書き殴っていた自動車に関する放言記事を1つのブログにまとめました。

ボルボS60/V60T6ポールスター まだまだ手段があるのでは?

  欧州の名門ブランドが新興国の資本によって次々と買収されていき、その結果めでたくアストンマーティンボルボジャガー、ランドローバーロータスといったブランドのクルマが今でも日本で買えます。中には新興国に対する偏見からか、ブランドとは名ばかりでどんどんと中身の無い高級車が作られるようになる!みたいな露骨な批判もありましたが、フタを開けてみると・・・メルセデスBMWアウディよりもむしろちゃんとしているくらいです。アストンマーティンはやや沈黙してますが、ボルボは果敢にプレミアムCセグに攻勢をかけてフォード謹製のエコブーストを日本に持ち込んでくれました。そしてジャガーメルセデスBMWに真っ向から喧嘩を売る新型Dセグセダンを開発し、エンジンまで新製してきました。

  ランドローバーは「イヴォーグ」で圧倒的なデザイン力を見せつけ、BMWSUVの化けの皮を見事に剥がして、かつてノウハウだけを奪ってポイ捨て・・・という酷い仕打ちをした元・親会社(BMW)に見事に復讐を果たしました。ロータスは最近になってエキシージSにオープンモデルを設定し、ポルシェやフェラーリにも負けないリアルスポーツのモデルを注目の価格で出してきました。どうやらこれから開発されるハイパフォーマンスカーは、中国・インド・マレーシアといったバブルを迎えつつある国の主導でやってもらった方がずっと良いものが出来る時代になったようです。80年代後半の日本で、NSXスープラ、RX7といった伝説となった「リアルスポーツ」が続々と登場したわけですから、現在バブルを迎えている国では、希望に溢れる若者の膨らんだ需要に応えるように今後も続々と魅力的なモデルが登場してくるでしょう。

  そんな中でバブル真っ盛りの中国資本の圧倒的な後押し?を受けて、ボルボが世界限定750台のハイパフォーマンスなセダン/ワゴンを発売しました。「S60/V60ポールスター」はS60/V60の上級グレード「T6」と同じフォードが何の為に作ったのかいまいちよく分らない、比較的新しい設計の3L直6エンジンを搭載したモデルです。フォード傘下だったボルボとランドローバーだけに提供されたもので、どちらもフォードグループの中で「対BMW」に位置付けられたブランドといったところでしょうか。BMWの代名詞と言える3L直列6気筒をそのままコピーした・・・と言いたいところですが、低速トルク重視のロングストロークになった4気筒とボア×ストロークを同一にしている現行のBMWの6気筒よりも、さらにロングになっている典型的な欧州型6気筒なので、日産がかつて作っていたRB26DETTのような鋭い噴け上がりをするタイプではないです。

  日本ではBMW3シリーズ・セダンの直6モデルがHV(738万円)しか選べないのに対し、ボルボS60はAWDの直6ターボ搭載モデルが本体価格565万円からあります。ただしBMWの直6にできるだけ新車でリーズナブルに乗りたいなら、M135iが566万円、M235iが615万円(いずれも本体価格)で買えるので、ボルボとしては「T6」をもう50万円ほど安い価格で出せれば、俄然このクルマがマニアの間でもっと注目される存在になりそうです。ちなみにアメリカでは羨ましいことにT6が400万円程度です(BMW335iは430万円!)。

  さて限定車として登場した「T6ポールスター」ですが、現在では公式ホームページ上には特にPRされていないので、日本発売予定の90台は見事に完売になったようです。S60で799万円という高額設定にも関わらず、この手のクルマは価値が下がりにくいとわかっているカーマニアによって予約が殺到したみたいです。現在でもスバルのSTIによる歴代の限定コンプリートモデル(S402など)がかなりの高値で取引されていますが、STIボルボ版がこの「ポールスター」ということになりそうです。クルマ雑誌にはBMWの「M」やメルセデスAMG」のようなものと表現されていましたが、カタログモデルになっていていつでも買えるものとは意味合いがだいぶ違うという気がします。

  ある程度の高額車になると、国産・輸入問わず、買い急がせる意味を込めて100台限定の「◯◯エディション」といったモデルが頻繁に登場します。どうやらスタイリッシュな大径ホイールを履かせて、一回り大型のブレーキキャリパーを搭載する・・・というのが定番の仕様のようですが、このポールスターにもまさにその王道のパッケージが装備されます。ここで注意したいのが大径ホイール仕様の中には、大型化したキャリパーが収まらないのでインチダウンが不可というモデルも結構あります。18インチ仕様の特別限定車に17インチのスタッドレスタイヤが装備不可だったりします。せっかくのAWDなので・・・泣く泣く4輪で30万円払ってスタッドレスを買う羽目になったりします。ボルボは最新のコンセプトモデルでもやたらと大径ホイールを好む傾向があり、このポールスターも20インチ(T6が18インチ、T6-Rデザインが19インチ)を装備しています。

  またエンジンも大きく手が加えられています。輸入車にありがちなのが、タイヤの1インチアップとエンジン出力の10psアップで、50~100万円程度ベース車よりも高いというものです。ポールスターのベース車Rデザインは304psで636万円ですから、ポールスターはおよそ160万円高くなっていますが、その分350psまで大幅にチューンナップされています。もう今では新車で買えないので799万円という価格はあまり意味がないかもしれませんが・・・雑誌などではBMW M3(1104万円)と比較されることが多いようです。高性能DCTを装備してポルシェやGT-Rに対抗しようとするM3は、GTセダンとしての実力も申し分ないですが、サーキット使用を意識した軽量化(1500kg!)が最新モデルでは積極に図られていて、1800kgを超えるポールスターとは単純比較できるクルマではなく、むしろコンセプトや用途はお互いにかなり違ったもののようです。

  ボルボがこのクルマで目指したのは、M3進化の過程でほぼ失ってしまった「実用車としての価値に重点を置きつつ、非日常に近い領域で走れる」という、クルマ好きのハートをガッチリ掴むというコンセプトだと思います。残念ながら人気絶頂のE36の頃のM3に備わっていたような「さりげない魅力」を持つクルマは年々減っています。ポルシェ911GT-Rの高性能化に先導されて、MもAMGアウディRSも電子制御無しには真っ直ぐ進まないような、500psを誇るスーパースポーツ級のモデルが多くなりました。0-100km/hが5秒を切っていれば、かつてのスカイラインGT-Rよりも断然に速いわけです(ポールスターは4.9秒)。それが高性能DCTとAWDの進化によって3秒台が当たり前になってしまいましたが、これはもはや一般道では全く用を成さない性能です。

  ボルボが日本のユーザーに発信している「安全性」「北欧の乗り味」といったイメージが、ドイツのプレミアムブランドの「過剰広告」の前に年々風化しているように感じますが、この「ポールスター」を見ていると、たとえ中国資本になってもボルボはブランドのアイデンティティを保ち続けているのが分ります。日本メーカーでここ数年はとても好調のマツダが、2010年頃から「北欧の乗り味」を取り入れてから、プレミアムブランドに肩を並べるしっとりとしたクルマを作るようになりました。そしてこのポールスターもマツダが主体になって設計したフォード時代のシャシーを熟成し、そして強化しながら使い続けています。

  マツダは日本でレクサスや日産を蹴飛ばすほどの潤いを放つクルマを作っています。セダンもSUVも実によい出来映えです。そしてボルボもまたメルセデスBMWアウディ相手に大いに健闘するクルマ作りが出来ています。ボルボが持つ「北欧」の上質な乗り味が、輸入車好きの間ではドイツ車のアイデンティティに書き換っていたりしますが、ボルボと乗り比べてしまえば・・・最近のドイツ車の乗り心地にはだいぶ瑕疵があることに気がつきます。ドイツ車に絶対のプライオリティを置いている人にはもう何を言っても無駄ですが、もし日産のセダンに乗って心を揺さぶるような快感を感じられる人ならば、ボルボの良さにも比較的簡単に気がつくと思います。ボルボにはぜひこのポールスターだけで終わらずに、日本のドライブシーンを充実させるような、さらなる興味深いパッケージを期待したいです。


リンク
最新投稿まとめブログ